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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和30年(ネ)50号 判決

控訴人 陣川栄一郎 外一名

被控訴人 国

訴訟代理人 広渡晴樹 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人等の負担とする。

事実及び理由

控訴人等代理人は、原判決を取消す。被控訴人は、控訴人等に対し、金一五〇万円及び内金一〇〇万円に対しては昭和二八年三月一〇日から、内金五〇万円に対しては同年一〇月二一日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方主張の事実関係並びに証拠の提出、認否、援用は、控訴代理人が当審において、法律上の主張として、(一)、公務員とは、官吏、公吏はもとより、すべて、国又は公共団体のため公権力を行使する権限を法令上与えられている者を含むものであるから、本件の場合、私人である執行債権者は、保管人として公務員の概念に含まれ、しかも、執行吏の補助機関であるから、その保管者の故意又は過失により違法に他人に損害を与えた場合は、国が賠償の責に任ずべきである。(二)、執行委任者と執行吏との関係は、私法上の関係でないとしても、国家賠償法第四条により民法の規定が適用あるから、控訴人等はここに、民法第六六一条の寄託関係を主張する。(三)、ドイツにおいては、法制上は過失主義をとり、判例上は無過失主義を肯認しているから、本件の場合も、国の機関に故意、過失がなかつたとしても、控訴人等を救済することが正当な一般利益に合致する所以である。と述べ、証拠として、当審における控訴本人太田音次郎の陳述の結果を援用した外は、いずれも、原判決事実摘示と同一であるから、ここに、これを引用する。

しかして、右控訴人主張の(一)、執行債権者は、その主張のように公務員の概念には含まれないし、また、執行吏の補助機関とも解しがたいところであり、(二)、国家賠償法第四条によれば、国の損害賠償の責任については、同法第一条乃至第三条によるの外、民法の規定によるとあるが、なお、執行吏は、執行吏執行等手続規則により、国の機関としてその職務を行うものであるから、執行委任者と執行吏との関係が、直ちに、その主張のような関係にあるとはいい得ない筋合であり、(三)、国家賠償法により国が賠償の責に任ずる場合は、公務員がその職務を行うにつき、故意又は過失によつて違法に他人に損害を与えた場合に限ることは、同法第一条の明定するところであるから、本件執行吏に故意又は過失のない場合には、国は損害の賠償をする責を負うべきいわれはない。それ故、以上の主張は理由がない。

されば、当裁判所も、また、原判決と同一の理由により、控訴人等の本訴請求は失当と認めるので、原判決の理由説示をここに引用する。当審における控訴本人太田音次郎の陳述によつても、控訴人等の主張事実を認めるに足りない。

よつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、同法第九五条、第八九条、第九三条を適用し、主文のとおり判決する

(裁判官 山下辰夫 二見虎雄 長友文主)

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